プロジェクトストーリーPROJECT STORY
意匠設計×設備設計×監理
クリオ駒沢公園プロジェクト
プロジェクトメンバー
設計統括
中川 浩一郎
設備設計室 設備部長
羽田 健一郎
設計室 リーダー
赤堀 喜昭
監理室 総括室長
近藤 重好
建築概要
- 所在地
- 東京都目黒区
- 延べ面積
- 4998.35㎡
- 構造・規模
- 鉄筋コンクリート造
地上6階建
- 用途
- 共同住宅
- 戸数
- 53戸
- 竣工
- 平成29年1月
Q. 最初に物件の概要を教えてください。
中川 「都立大学と駒沢大学の2駅が利用できるので、都心へのアクセスに便利です。また、駒沢オリンピック公園に隣接し、緑豊かな落ち着いた立地でもあるため永住にふさわしいとても恵まれた物件です。 よって販売価格も高額となり、高級仕様が求められました。また駒沢通りに面すことから街並みにも大きく影響を与えるためファサードデザインに対する責任感を強く覚えました。」
Q. 高級仕様にするために、どんな計画をしましたか?
中川 「空間そのものが気持ちよく贅沢に感じられるように熟慮しました。共用部においてはエントランスから中庭まで見通せるように配棟計画を工夫しています。 住戸については、少しでも間口を広く取れるようにし、上層階ではさらにワイドスパンの100㎡越えプレミアム住戸を計画しています。もうひとつの特徴として、玄関にアルコーブをつくり、横入りの動線計画としています。こうすることで住戸内の廊下の正面に窓をつけることができ、玄関からバルコニーまで風がまっすぐ通り抜けるプランを実現することが出来ました。
Q. その中での苦労した点はありましたか?
赤堀 「そのプランをつくるのが大変でしたね。実は最初は一般的な縦入りにする計画で進めていたのですが、住戸にもひと工夫欲しいよねっていう話になり、施主を交えて考えてこの案にたどりつきました。一度決まっていたところからの再検討だったので時間と労力は使いましたが、 結果、意図した通りに風が抜け気持ちのいい空間になりました。
中川 「加えて、共用廊下側の空間構成でも効果がありましたね。廊下を歩いていても直接、玄関が目線に入ってこないため落ち着いた佇まいになり、高級物件らしい雰囲気となりました。これまでの集合住宅の共用廊下は玄関扉・面格子・エアコン・室外機・MBの扉など要素が多く、どうしても乱雑になるのですが、今回はあまり目立たなく少しの工夫で空間が変わることを実感しました。」
赤堀 「プラン内部としては上階にある100㎡越えプレミアム住戸は、部屋を正形にし、横長リビング・大きい開口を確保し、柱型を出さないなど工夫をしました。下階の標準プランとは間取りが違うので、PS(パイプスペース)や水廻りの位置などの計画が難しかったです。
Q. 上階と下階でプランが異なると、設備の面にも影響がでてくるのですね。
羽田 「そうです。共同住宅では上下階の各住戸の風呂やキッチンなどから出る排水は通常数本の共用縦管に集め下階へ排水するのですが、この共用縦管は漏水の観点から途中で曲げることは避けなければなりません。 そのため上下階でプランが違ってもPSは揃えないといけないです。さらにディスポーザーを採用したので、キッチンは単独系統としなくてはいけないためPSより計画が難しくなりました。
Q. 他に意匠面から設備に影響がでた点などはありましたか?
羽田 「敷地が道路から80cm程度高く、日影規制と高度地区による制限も厳しかったので、平均地盤面を調整するため、1階を道路面に合わせて80㎝程度埋めています。そのために雨水の排水計画には気を遣いました。住まいが水浸しになってしまうことはあってはならないですからね。通常より多くのオーバーフローを取るなど下水本管がパンクした時も想定して計画しています。」
Q. 設備設計はどのくらいの時期から計画されていたのですか?
羽田 「検討は、設計初期の段階から関わっていたので、後々の苦労は少なかったと思います。こんなことを言うと誤解を生みそうですが、設備と意匠って仲が悪いんですよ(笑)というのも設備って意匠的には見せたくないものでしょ。室内にしても設備で必要とするスペースって天井下がりとかでっぱりに直結するので、いつも意匠はこうしたいでも設備はこれだけのスペースが必要ってせめぎあいなんですよね。ただそれも現場に入ってからそういった話になると収拾不能になっちゃうので、計画初期段階から相互に問題点を洗い出して検討していけば、いい解決案が出た上で現場に進めるので、最終的な仕上がりに大きく影響してくるんですよ。」
Q. 監理する上で苦労した点はありますか?
近藤 「現場でも敷地条件のために、地盤の接地面の処理は非常に気を付けました。ここを雑にすると、建物内に水が侵入するポイントとなってしまいます。こういった点は設計時というよりは現場に入ってから監理としてしっかり施工者と対策を模索していきます。設計図書通りに施工されているかをチェックするのが監理ではありますが、こういった図面では表現しきれない部分も監理してこそ良い品質が生まれるのです。住まう人にとって良いデザイン良い空間はもちろん日常を彩る大切な要素ですが、トラブルなく生活できることが一番大事だと考えています。」
Q. ファサードデザインはどういうプロセスで決まっていったんすか?
中川 「まずは施主のイメージを伺い、重厚感と邸宅というキーワードをいただきました。そこから邸宅とはどのようなことか考え、フランクロイドライトのプレーリースタイルをイメージし水平性と垂直性を意識したデザインを提案しました。何度か施主とのイメージの差異を調整はしましたが。最終的にはお互いの意見を融合することによる相乗効果もあって思わぬ良いデザインにたどりつけたと思います。」
Q. 最終的にどのようなデザインになったのですか?
赤堀 「"モダンな面構成を自然な素材感で包む" を設計コンセプトとしています。建物の要素であるスラブと壁の垂直性と水平性を強調することで装飾的な処理ではない建物本来の形態の美しさを表現したデザインとしました。」
Q. デザインする上で、どこに力を注ぎましたか?
中川 「素材を選ぶときですね。まずは、45二丁掛けタイルのような一般的なタイルは使用しないと決めました。高級感とは非日常を感じることだと思うんです。例えば、扉の高さを2mではなく3mに、床石は300角ではなくて800×1200にしたりと、見慣れたものとは少し違うものを使ってみる、そんなところから人は感覚的に認識するのだと思います。ですから、今回外壁タイルは特にこだわっています。低コストを意識しながら、質感やサイズ感を重視し、片端からタイルを取り寄せて、検証をしました。その中から選んだタイルも色見本を何色ももらい納得するまでつくり、結果コストも抑えながら、仕上がりも良いタイルにたどり着くことができました。」
近藤 「タイルの見栄えを良くするには、タイル割りも重要になってきます。施工者から上がってくるタイル割図は効率性を重視しているので、入念にチェックをして、不用意に目地が入らないように調整し、見栄えの良さを意識しています。特に今回は一般的な45二丁掛けタイルではなかったので、割付がより大事でした。ここをしっかり詰められたのは仕上がりにも大きく影響したのではないかなと思います。」
Q. そのほかに、かかわり方で工夫したところはありますか?
中川 「今回、エントランスの石貼り仕上げを新しい手法で試してみました。30mm~40mmの厚い石で小口を見せるコーナーの収め方とし、石の重量感を表現して高級感を演出してみようという考えです。こういった特殊な納め方の試みでしたので実際に施工する石材の職人と直接打合せを重ねました。その甲斐があって意図がうまく伝わり、いい出来栄えになったと思います。やはりこういったこだわりや特殊なことをしたい場合は、施工図のチェックだけで済ますのではなく、直接打合せをしてつくりたいイメージを共用することが大事ですよね。そうすることにより施工者にも熱意が伝わると思います。」
近藤 「そうですね。施主・設計者・監理者・ゼネコン・職人で一緒にいいものをつくろうという一体感を築きあげるといいものが出来上がりますね。意匠的な考え方やイメージを共通認識として持ってもらうと、スムーズに工程が進み、現場も良いものをつくろうと提案してくれますね。立場は違いますが、いいものをつくりたいという想いは皆同じなんです。」
Q. 施主から喜んでもらえたことは何ですか?
赤堀 「スケジュール通りに完成したこと、好評で早期完売したこと、そしてデザインがかっこいい!想像以上だったと喜んでいただけました。」
中川 「違和感や、苦労が見えてこない建築こそが良い建築だと思っています。この建物は、法的制限がきつくてかなり複雑な形状なのですが整理をして、逆にデザインに生かすことで、どこから見ても違和感のない建築になったと思います。実は法的制限によりどうしても複雑になってしまう建築の方が、その特徴を見出しうまく処理することが出来れば意外性のあるおもしろいデザインになることがあるんです。」
Q. 最後このプロジェクトが成功した要因は何だと思いますか?
赤堀 「この物件は組織設計事務所でないと出来なかったと思います。スケジュールがかなりタイトだったことに加え、法的規制など課題も多く、難易度の高い物件でした。そういった条件の中多くの方々の意見やアイディアを組み合わせて出来上がったまさにチームワークが成せた建物です。組織設計事務所の利点を生かして密に連携することにより、質の高いものが出来上がり、提案型の進行により円滑にプロジェクトを進めることができました。」